HEAPSmedia

美術館が、作品を作りたい版画家に出した条件とは?

ART

私たちは何かを記録しようとするときに写真を撮ることがある。

感動的な風景やお気に入りの雑貨、友人とのランチ…どれに対しても同じようにスマホを向ける。

しかし、写真によって記録はできても記憶することが疎かになってしまってはいないだろうか。

記録と記憶のバランスが一番ぴったりくる方法

現在、パリ・オートクチュール展が開催中の三菱一号美術館。

その片隅で開催されている展示に、彼の、そして私達の、記録と記憶をたどるためのヒントが隠されている。

緻密な線と美しい黒、繊細な紙。

注目の若手木版画家、田中彰の展覧会である。

彼の場合、木に見たものを刻みこむことが一番忘れない方法だという。

実際、モチーフを目の前にして下書きなしに彫り進めることもある。

田中彰さんは昨年武蔵野美術大学大学院を卒業した27歳。

今回の個展は、彼の「アートアワードトーキョー丸の内2015」三菱地所賞の受賞を機に開催された。

Ancient of Light, Water and Tree 2
2015
130cm x 95cm
oil based woodcut on paper

この細かな描写のすべてが木版によって刷られているのだ。一体どうやって?

木版といえば、彫刻刀でガツガツと彫られたものをイメージする。

しかし彼は、半田ごてを使って木を焦がし、焼き付けるようにして繊細な軌跡をつけているのだ。

もちろんこの独自の技法で木版を彫るのは彼しかいない。

紙へのこだわりもある。一見和紙のようなその紙はネパールで作られた手漉き紙だ。

ネパールへは彼自ら足をはこんだこともある。

一般的には紙に刷った”結果”が作品となる版画ではあるが、版を”彫る”という版画に至るまでの過程や行為を作品にすることもある。

大きな丸太をくりぬき彫り跡を残したもの、木製ベンチの裏に刻まれた昆虫たち。

それら全てが木版画作家としての制作活動だというから驚きだ。

架空の生き物たちが丸太の内部に刻み込まれた様子は、太古の壁画のようでもある。

地層のごとく積み重ねられた時間と広大な世界観がそこにある。

なぜ彼の作品から深い時間の重なりを感じるのか。

作品の中には400年前に日本で初めて作られた銅版画である「セビリアの聖母」を模刻したものもある。

しかし、モチーフは歴史的なものばかりではない。むしろ日常の何気ないもので溢れている。

石ころや看板、草木花に虫たち、そして旅先で出会ったという人々。

そのひとつひとつが彼の手によって丁寧に記録し記憶されていく。

版画やアートに詳しくない人でも、身近なモチーフに親しみを覚えるはずだ。

どこか懐かしさを感じさせるモチーフの数々が、わたしたちの忘れてしまった記憶や感覚を呼び起こすからかもしれない。

そして、今この時もこの場所で作品は生まれ続けている。

こんな素敵なエピソードを聞かせてもらった。

おとなりで開催中のパリ・オートクチュール展。

彼がそこに飾られたドレスを版画にする許可を取ろうとしたところ、ガリレア宮パリ市立モード美術館からある条件がもちだされた。

「その中から1点を寄贈してくださるのなら良いですよ」

こんなに素晴らしい条件があるだろうか。

彼はいまもバレンシアガのイブニングドレスを、その場、その時、その彼にしかできない方法で記録し記憶し続けている。

田中彰 HP http://www.tanakasho.com/

【展覧会情報】

アートアワードトーキョー丸の内2015三菱地所賞受賞

「樹について」田中彰個展

会期:2016年3月4日(金)~5月22日(日)

開館時間:10:00~18:00(祝日を除く金曜、会期最終週平日は20:00まで)

入場無料

休館日:月曜日(但し、祝日と5月2日、16日は開館)

会場:三菱一号館 歴史資料室

主催:三菱地所(株)

引用:三菱一号美術館 http://mimt.jp/blog/museum/?p=4205

Writer: Moeko Tokumoto

from BeInspired!

 
 

この記事が気にいったら、いいね!しよう
HEAPSmediaの最新情報をお届けします!

TAG


アプリで、HEAPSmediaを楽しむ。

どこでもいつでもサクサク快適に“遊び”が見つかる。

HEPASmedia

DOWNLOAD NOW!

アプリ画面

PAGE TOP