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97歳プレイボーイ、地下鉄にダンスホールをつくる

PEOPLE

ホリーデーシーズンのとある日曜日。マンハッタンのFライン「セカンドアベニュー駅」はいつもと違った。

「列車が来たぞー」。どこからか声が上がり、それに呼応するかのような歓声で包まれている。そこに鈍いブレーキ音をたててやって来たのは1930年代製のレトロな列車。ホームには歓迎するかのように、ヴィンテージスーツやワンピースでドレスアップした人たちが集まり、ジャズバンドの演奏に合わせて軽快にスウィング(ダンス)している。

「君はスウィングを踊れるか?」

一人の男がそういって手を差しのべてきた。黒のスーツに蝶ネクタイ、ハットを被りキマっている。Michael Ingbar(マイケル・イングバー)。この日、ニューヨークの地下鉄を1930年代にタイムスリップさせた男だ。

「こっちに来なさい、教えてあげよう」とぎこちない動きで一歩足を踏み出したが、バランスを取りながらこわばった体を支えるのがやっとだ。97歳になるマイケルは、数年前からパーキンソン病を煩っているという。

「スウィングは簡単で楽しいから、ほら。心を一つにして4本の足(スウィングは男女一組で踊るため)を動かすだけさ」と白い歯を見せた。「音楽を聞くと勝手に体が動く。1920、30年代のニューヨークと当時のカルチャーが大好きでね」。

ブルックリンで生まれ育ち、若い頃はスウィングとバルボアのダンサーとして活躍し世界中を駆け回っていた。現在は、30年ほど前にはじめたというアートギャラリーをソーホー地区で経営しながら、週末は個人向けにダンスレッスンを開いている。

乗客の「WOW!」が “おじいちゃん”を“プレイボーイ”に

「僕もこの列車に乗っていたんだ」と目を細めて列車を見つめている。2007年のホリーデーシーズン(11・12月)もニューヨーク市都市交通局(以下、MTA)が「Nostalgic Trains(ノスタルジック・トレイン)」を運行することを知ったという。

「せっかくならばと、その時代に戻った気分で1930年代のファッションをして当時の新聞紙を持って乗車したんだ。そしたら周りの乗客が僕を見て『WOW!』って顔して写真を撮るんでね。それを見たとき、もっと本気でやろうと思ったんだ。たくさんの人たちと当時のファッションで、ジャズバンドも呼んでスウィングダンスパーティーをしたらきっと楽しいってね」と7年前を振り返る。

当時90歳、パワフルな人だ。「いつもの地下鉄」が「新しい交流の場」になるとき 翌年の同じ頃、またノスタルジック・トレインが走ることを知ったマイケル。今度こそはとジャズバンドとスウィング仲間に声をかけ、結果、四つのバンドと100人弱の人が募った。

このイベントが「Vintage Train Jazz Party(ヴィンテージ・トレイン・ジャズ・パーティー)」と名付けられる。当初はほとんどがマイケルの仲間うちだったが、今では SNSを通してシェアされその輪は広がり、特にファッションを楽しむ若い世代が増えているという。「このブローチかわいい」「このジャケット素敵!」と見ず知らずの人たち が声を掛け合い一緒に写真に収めている姿は、まさにファッショニスタの交流の場になっている。

マイケルは手帳にある手書きのデータを見ながら「09年には08年の倍近くの人が 集まって年々規模が大きくなってね。ほら。14年は14のバンドと700人近い人。ちゃんとしたイベントになってきたし、手伝ってくれる仲間も増えてワイワイやってるよ。でもさすがに何か問題になって逮捕されたらまずいと思って去年はイベントをする前にMTAに連絡したんだ。そしたら許可は出せないっていわれちゃって。だから実は無許可だったんだ」。仕方ないといった様子で眉毛をひょいっとあげる仕草をした。

“秘”公認。最終電車の極秘パーティー大作戦

ところが、今年は嬉しいニュースが舞い込んだ。「何だと思う?」とマイケルは無邪気な顔をして取材陣の顔を覗き込む。このノスタルジック・トレインは二つの組織が関 わっていて、列車の運行とイベント自体を運営しているのは前述のMTA。

一方、普段この列車を管理し保管しているのはニューヨーク市交通博物館(New York Transit Museum、以下NYTM)。そのNYTMからマイケルに連絡があり「Vintage Train Jazz Party」のイベントが終わった後、NYTMを貸し切ってスウィングパーティーをしないか、という誘いがあったのだ。

「嬉しかったね、まさかNYTMから声がかかるとは」 と口元を緩ませた。

夕方5時30分にセカンドアベニュー駅を発車しMラインのクイーンズ・プラザ駅で折り返してくる最終列車は、車庫であるNYTMに戻る。そこからそのまま最終列車に乗せて客を連れてきてはどうか、という提案だった。

「最高でしょ。最終列車に乗り合わせた乗客だけに声をかけてNYTMへ連れて行ったんだ。着くとそこでもっと盛大なアフターパーティーがはじまるというビッグサプライズ。事前にアナウンスしていなかったから乗客は驚きと喜びで大興奮だった」と得意げに話す。

その場で販売した1枚10ドルのチケットは即完売。パーティーは深夜まで盛り上がりをみせたという。年齢と病気はさておき 「取りまとめるのは結構大変なもんなんだよ」とこぼすが嬉しそうなマイケル。

「MTAにイベントはオフィシャルとしては許可できないと断られた。でもね、その担当者が 『We love it. (そのアイデアは大好き)』っていうんだ。それに車掌さんも気に入っくれてて声をかけてくる。みんなが好きっていうことは、それは『OK(許可しました)』 のサインさ」

「Vintage Train Jazz Party」をはじめてから8年、彼のスウィングへの情熱は、新たに若いファッショニスタを集め、公共のNYTMや交通機関MTAまでも動かしつつある。また今年も、MTAにも認められることを夢見て次回の1930年代への「タイムスリップ旅行」を企画する。

「僕の100歳を祝うときは、100人の女性とスウィングしたいね」。

97歳、まだまだスウィング愛と“温故創新”のスピリットで走り続けている。
究極の遊びを追い求めて。

※この記事は、HEAPSに2015年2月に掲載されたものを編集したものです。

Edited by HEAPS Media
Original Text by Tomoko Suzuki
Photographer by: Kuo-Heng Huang, Richard Panse, Byron Hon

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