HEAPSmedia

世界を旅する、古本アーティストが描く世界

ART

旅先で心震える風景や感動に出会ったとき、どうしますか?

画像や映像を撮影してSNSでシェア、大半の人の答えはそうかもしれない。

彼女の場合は違う。彼女はまず鞄から古本を取り出す。旅先の蚤の市などで手に入れておいた古本だ。そして興奮さめやらぬうちに古本のページの上にペンを走らせる。目の前に広がる風景をありのままに、かつ情熱的に描いていく。この美しい瞬間を余すことなく閉じ込めるかのように。

画家・中内渚は、世界各国を旅して、その地の風景や文化を古書に描いてきた。一点物といえる古書の風合いと、彼女の繊細なタッチで描く旅の情景が合わさり、見る者を異国の変わらぬ幸福の一瞬に立ち会わせてくれる。

「旅を伝えたいというのが、自分の人生の中で一番強い思いかもしれない」

旅の素晴らしさ、現場で感じた感動をできれば全部閉じ込めて臨場感をもって伝えたいと語る彼女の作品は、その土地に触れた彼女の感触が忠実に表現されている。

彼女が旅をし、ときには暮らしながら描いてきた作品を、国ごとにいくつか見ていこう。

 

旅の始まりの地・南米

彼女の人生における旅の始まりは、南米のアルゼンチンだった。5歳のとき日本からアルゼンチンへ移り住んだ。そのときに受けたカルチャーショックや異文化の中で見つけた美しいものへの憧れが、今もなお画家・中内渚の核となっている。

帰国後もその想いは消えず、パラグアイへのスペイン語留学も含め、彼女は度々南米の地を訪れている。

・パラグアイ

パラグアイでの初個展にて発表された作品『Mosto Helado おじさん』。パラグアイでの留学中、急に絵の描き方がわからなくなり、スランプに陥る。その2年間のスランプを経て、初めて描いた作品。まだキャンパスは白い紙だ。この頃、古書に絵を描くというスタイルに出会う。

 

・メキシコ

 

・コスタリカ

植物も中内が好んで手掛けるモチーフのひとつだ。今年開催された個展『Tropical botanica on the vintage books -古書に咲く熱帯の花々-』では、中南米、熱帯アジアの植物を描いた作品が展示された。

 

アーティストとしての飛躍を導いたヨーロッパ

中内は、スペインに関する作品や仕事を多く手掛けてきた。スペインに関する著作もある。2007年にはバルセロナのピラミドン現代アートセンターに招待アーティストとして滞在し、制作活動を行った。

他にもフランスや北欧に足を運び、精力的に作品制作に励んでいる。彼女の画風とヨーロッパの風土は相性がいいのだろう、代表作といえる作品を多く生み出してきた。

・スペイン

華やかなスペインの祭り。美しい衣装や鮮やかな街の装飾、そして生き生きとした街の人々の姿を臨場感たっぷりに伝えている。『情けない男の子』では、女の子たちに囲まれた中央の少年のなんともいえない困ったような表情が笑みを誘う。

 

・フランス

旅に食の楽しみは付き物。フランスでは見た目も可愛く目を引くスイーツを多く描いている。

「旅先では美味しいものを食べることよりも、その食事の絵を描ききることのほうが圧倒的に喜びが大きい。絵を描き上げるためにスープや食事が冷め切ったりすることも気にならないんです」

 

・ノルウェー

 

なぜ古本に描くのか?

旅先で古本を買い集めながら、その古本のページの構図や文字、色合いを生かしながら旅の情景を描く、他に類を見ないやり方で作品を制作してきた中内渚。

「私にとって古書とはインスピレーションそのもの」と語る彼女は、誰とも違う自分だけの表現形態に心の底から熱中し、楽しんでいるようだ。

「古書に描くという方法に出会ったときは、長いスランプの中でした。白い紙を前にすると自由すぎて何をどうしていいのかわからなくなっていたんです。でも古書だとタイトルや文字が入っていて元々構成が出来上がっている、そこにおじゃまする感じで書き込んでいくと、見えない手で導かれるように理想以上の出来上がりとなる。背中を押されるというか、まるで魔法のようなんです」

古書にもその国ごとにらしさが出ていて、面白いと彼女は言う。古書がその国の歴史や空気感を伝えてくれるのだ。

「例えば北欧だと白くて大きい紙が多い。大柄な人が多いためか古本も大きいし、太陽があまりあたっていないから紙も茶色っぽくならずクリーム色だったりするんですよ」

また、古本自体のタイトルなど書かれている文字を作品に絡ませることもある。「人生の不安」という本のタイトルに「?」をつけて、スペイン語で「何言ってんの!」という意味の文を付けたし、あえてお祭りの人生の楽しい瞬間を描いた作品もある。

 

海外と日本の間で揺れ動きながら

中内は世界中を旅するだけでなく、世界の様々なところで個展を開催してきた。

「海外ではすごく日本的な絵だと捉えられることが多いんです。緻密な感じがそういう印象を与えているのかと思うんですが。でも逆に日本だと外国人っぽい絵だと言われるんですよ」

国内外での評価の違いを彼女自身は自分の人生や存在と照らし合わせて「自分は中間にいるのかな」と捉えている。

「合計しても5年くらいしか海外に住んでいなかったのに、帰国後日本になじみきれなかった部分があって、日本人らしい振る舞いに合わせたところもあるけど、しっくりこないというのがある。だから今でも海外に行くとたがが外れるというか解放感を感じるんです。自分の描く絵もそんな自分に近いのかなあ」

その地で生まれ住み続けている人間ではないからこそ、見つけられる美しさがある。でもその美しさや異文化の違いに寄り添い、心底リスペクトする心の豊かさ、柔軟さがなければ、ただの外の人間で終わってしまい、その魅力の奥底には近づけないだろう。中間にいる彼女だからこそ、表現できる旅の素晴らしさ、世界の美しさがあるのだろう。

今後も古本に絵を描き続けるかと彼女に聞くと、「まだまだ古本のおかげでうみだせるもの、新しく出会えるものがあると感じられるので、やめる気はないですね。全然飽きなくって」と笑顔で答えてくれた。

個展だけに留まらず、自由に描く楽しさを伝える絵の教室、今までの旅をまとめた旅行記の制作など、彼女の挑戦は広がり続けている。

もちろん、古書とともに描きながら巡る彼女の旅も進行形だ。今年もバリ、ハワイへの旅が控えている。今度はどんな素晴らしい旅の瞬間を、古書の上で私たちにみせてくれるのか、今から楽しみだ。

中内渚
http://www.nagisa.asia/

Writer: Erika Takamatsu

 

 
 

 

この記事が気にいったら、いいね!しよう
HEAPSmediaの最新情報をお届けします!

TAG


アプリで、HEAPSmediaを楽しむ。

どこでもいつでもサクサク快適に“遊び”が見つかる。

HEPASmedia

DOWNLOAD NOW!

アプリ画面

PAGE TOP