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日本と南アを融合した演劇「KOCHIRA(こちら)」

ART

南アフリカのヨハネスブルグ市に日本演劇に影響を受け、日本と南アフリカの文化を融合させた作品を作る演出家がいる。彼の名前はトリスタン ジャコブ(Tristan Jacobs)

今回はグラハムスタウンという街で行われた彼のショーを取材させてもらった。

最近失くした物は何?

劇場の待合場所でドアが空くのを待っていると、劇団男性が「最近無くしたものを書いてくれない?」と紙とペンを持ってきた。どうやら観客みんなに同じ質問をして紙をわたしているようだ。「最近無くしたもの?」私は考え込む・・・。

観客は各々紙に何かを書き、同じ男がその紙を小箱の中に集めていった。

その「Kochira(こちら)」というショーは、背の高い南アフリカの白人の男が日本語を「こんにちは」とか「そうそうそう」とか ポツリ、ポツリと言いながら始まった。男の目の前には大きな木箱がある。彼はその箱を不思議そうに眺めている。舞台には彼とその箱しかない。

着ている衣装は日本の雰囲気を持っているが、一風変わったおもしろいデザイン。

その木箱には5つの引き出しがあった。 彼はその木箱を重そうに背負う。

引き出しの中には「亡くなった者の記憶」が入っている。

その引き出しを開ける度に彼は誰かを呼ぶ。引き出しの中に入っているのは親父と女性と犬の記憶。引き出しを開けると、その記憶が彼に乗り移ったように、彼の人格が変わる。ある時は親父になったり、ある時はたかい声の女性になったり、「ワン!ワン!」と犬になったりする。残りの引き出しはきっと、舞台が始まる前に書いた観客個人個人の失くしたものが入っているのだ。

インタビューの中でトリスタンはこう話している。

「これは僕の個人的な旅でもあるんだ。実際に僕は親父と女友達と犬を失くした。それは人間が誰もが人生で経験する喪失感だ。そして死んだ者の記憶、それを木箱に入れ背負い、旅にでる。」

「日本」と「南アフリカ」の混ざり合う新しい演出

一番上の引き出しを開けると、トリスタンの姿は年老いた男に変身する。彼はそれは亡くなった父親の記憶だという。

手にはパイプを持つ素振りをし、それをゆっくりと吹かす。その姿は日本の落語を思わせる。

劇は最初から最後までトリスタン一人だけが演じ、日本文化があちらこちらで見受けられるけど、それは日本演劇とはまた違った独特な演出の仕方だ。

「日本の文化や演劇はおもしろい。でもまだその深いところを理解できていない自分がいる。だからそこに南アフリカのエッセンスを加え、新しいものを生み出すんだ。」素直にそう語る彼。

日本と南アフリカの演劇が融合したこの新しいスタイルの演劇は、言葉をほとんど発しない。しかもその言葉は日本語のみをポツリ、ポツリと話す程度。私の他に日本人の観客もいないし、彼が言っている言葉を理解する者はいない。ナレーションなどもない。

「この作品は『詩』のようなんだ。詩は3行しかなくても、読む人によってそれは膨大なイメージが広がる。この作品は言葉がないだけ、観客のイメージが必要になる。そのイメージも含めて作品が完成するんだよ。」と彼は語る。

言葉の壁を超えたユニバーサルな演劇

大学で日本演劇のコースを選択したのをきっかけに、それまで彼が学んできた演劇と全く違う日本演劇に魅了された彼は、2013年日本へ5ヶ月の旅に出た。

「演出家の鈴木忠志氏にとても興味を持ったんだ。東京を選んだのは単純に国際都市なので、外国人でもいい機会に会えると思ったからさ。そして演出に携わる日本人女性と出会い、いろんなことを学んだよ。また日本に行きたいと思ってる」

2013年には「花道」という作品を演出した彼。南アフリカ人が歌舞伎のメイクをして演ずるという面白いものだ。

日本への情熱を語る彼に、これからのスタイルを聞いてみた。また日本と南アフリカを融合させた作品を演出しようと思っているのであろうか。

「僕が今思い描いているのは『異文化パフォーマンス』という形で、いろんな文化を織り交ぜ、文化と文化を繋ぐ架け橋になれるような作品にしたいと思っているんだ。そうするとやっぱりユニバーサルな演出にしなければ意味がない。だから今回の作品では日本語を少し話すものの、ほとんど言葉がでてこない。言葉のバリアを退けて誰にでも見てもらえるように作っているんだ。

公用語が11カ国語もある南アフリカだからこそ、彼は言葉の壁というものを取り外したいと思っているのだ。それは英語を公用語としない私たち日本人にも嬉しい演劇だ。

トリスタンはまたいつか日本へ行きたいと思っている。次は東京ではなく、少し田舎で有機ファームなどのワークエクスチェンジとして働きながら、日本の演劇と文化を学べたらと考えているそう。純粋でフレンドリーな彼の一面に触れて、遠く離れた南アフリカと日本の文化が融合することに、希望を感じる。これからの彼の演出にも注目だ。

Writer: バンベニ 桃

 
 
 
 

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