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「速度」を描くアーティスト 林香苗武

ART

Photo by Akira Aoki

「石ノ森章太郎の漫画を読んでいた時、一瞬のうちに敵を切ってしまったそのスピード感は確かに伝わってきた。でもその『速いことがわかる』ってなんだろう?どうして速さが描けるのかが気になるんです」。

線となって後方へ消えていく風景、振り下ろした刀が描く残像…。漫画を読んだことがあれば動かない絵の中にも速度を感じたことが一度はあるだろう。しかしなぜそこから速さを感じるのだろうか?
林香苗武はカンバスの上に「速度」を描く期待の若手アーティストだ。

小柄な彼女が大きなカンバスに描く作品は親しみやすさと同時にスリリングな視覚体験をもたらしてくれる。

大学2年生の時、速度をテーマにした課題が出された。課題に取り組むため様々な資料を参照する中でSTUDIO VOICE(1999年8月号)に掲載された現代美術作家中村哲也の作品に出会う。その速そうな造形フォルムに夢中になり、そこから速度を主題に制作するようになった。

by STUDIO VOICE 1999年8月号(Vol.284)

2015年2月20日「速度主義宣言」という宣言文を知人にメールで一斉送信。

この宣言は1909年の同日にイタリアの詩人フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティが行った未来派宣言を下敷きにしたものだ。未来派とは加速する近代化を歓迎し、戦争における破壊的衝動をも支持した20世紀初頭の文化運動で、画家や音楽家など様々な人々が参加していた。
林はそのアナーキーな態度に惹かれるものを感じたという。

Photo by 林香苗武による〈速度主義宣言〉2015

その後「速度主義宣言」をコンセプトとした個展を開催したが、

「今までの作品を見てくれていた人からは、よくわからなくなったと言われることもありました。宣言の出し方が素人だったんです。宣言は一種のカードだったと考えるようになりました。あのとき私が持っているカードを一枚切った。そういう感覚です。」

「小学生の時とにかく体育が苦手で、50m走が10秒とか。でも絵を描くことは褒められた。そして『速さ』への憧れを私が実現出来る唯一の方法が絵だった。」

Photo by Akira Aoki
Photo by Akira Aoki

速さへの憧れを抱く林だが、ミキサーを描いた作品では速度が持つ暴力性にも触れている。
「身近な存在のミキサーですが、実は小型のモーターに刃物が付いている危ない機械でもある。速度は暴力的でもあるんです」

未来派も戦争などの社会情勢を背景にその破壊的な思想を加速させていた側面がある。今の日本にもそうした危惧を感じているのだろうか。「私もそれを考えていて…でも、それを私がどうやって表現するのか。今は作品数も少なくてわからないから、描きながら思考するしかないと思っています」と語る。

おっとりと話す林だが束縛と打開を繰り返す彼女の表現には人間らしい身体感覚が宿っているようだ。

「今の時代、私がカンバスに速さを描こうとすること自体がもう遅い。それを言葉にしようとした時、頑張って自転車を漕いでいる警官の姿が思い浮かんだんです。古い道具に乗って頑張る姿が、不思議と速く見えた。私がやろうとしているのはそういうものなのかもしれない。」

手帳にはマリネッティの詩の一節が貼られていた。

Photo by Akira Aoki

私は賭けに応じる
もっと速く、もっともっと速く…
たえまなく、たゆみなく…
束縛を解き放つがよい
お前たちにはできないのか
断ち切るがよい——さあ、それを

林香苗武はこれからも絵筆を握り、華奢な身体で走り続けてくだろう。

きっとカンバスの上では誰も彼女に追いつけない。

「絵画検討会 2016」 会期:2016年7月2日(土)〜7月23日(土)
、11:00-19:00
※日・祝休廊 参加作家:TYM344/高田マル/林香苗武/ムカイヤマ達也/本山ゆかり
会場:ターナーギャラリー(〒171-0052 東京都 豊島区南長崎 6-1-3)
http://turnergallery.net/

座談会「絵画検討会トーク篇」
7月2日(土)16:00〜

林香苗武
hieido.com

Writer: Akira Aoki

 

 

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